日本臨床栄養学会による『亜鉛欠乏症の診療指針』1)より「亜鉛欠乏症の診断指針」と「亜鉛欠乏症の治療指針」を原文のとおり記載します。
「亜鉛欠乏症」は「亜鉛欠乏による臨床症状」と「血清亜鉛値」によって診断されるとされています。これに対し、「低亜鉛血症」は亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたものです。
亜鉛欠乏症の診断指針1)
- 亜鉛欠乏症は,亜鉛欠乏の臨床症状と血清亜鉛値によって診断される.下表に亜鉛欠乏症の診断基準を示す.亜鉛欠乏症の症状があり,且つ,血清亜鉛値が亜鉛欠乏または潜在性亜鉛欠乏であれば,亜鉛を投与して,症状の改善を確認することが推奨される.
- 注意すべきことは潜在性亜鉛欠乏の血清亜鉛値の範囲(60 ~ 80µg/dL未満)には,亜鉛欠乏症状のない人も多く,その場合は亜鉛投与の適応にはならない.亜鉛欠乏の症状があり,且つ血清亜鉛値が潜在性亜鉛欠乏の範囲以下に限り亜鉛投与の適応になる.
- 亜鉛を投与して数か月間で亜鉛欠乏症の症状に変化ない場合は,亜鉛欠乏による症状ではないと判断して,亜鉛投与を中止する.
- 血清アルブミンと血清亜鉛との関連が指摘されており,アルブミン補正亜鉛値の計算式が提案されているが,今後,さらなる検討が必要と思われる.
表1 亜鉛欠乏症の診断基準1)

亜鉛欠乏症の治療指針1)
- 診断基準の1,2,3を満たした場合,治療の適応になる.亜鉛の投与量は,学童以降成人では50 ~ 100mg/日,幼児では25 ~ 50mg/日,小児ではまたは1 ~ 3 mg/kg/日(食後)を目安とするが,治療当初は上記の少ない量から開始し,効果および副作用を見ながら,1 ~ 2か月毎に増減する.
- 皮膚炎は1 ~ 2週間で改善するが,味覚異常や低身長症などは治療効果が見られるまで数か月かかる場合がある.
- 治療効果が見られない時は,症状は亜鉛欠乏によるものではないと判断して亜鉛製剤を中止する.
- 慢性肝疾患,糖尿病,炎症性腸疾患,腎不全では,しばしば血清亜鉛値が低値である.血清亜鉛値が低い場合,亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがある.したがって,これら疾患では,亜鉛欠乏症状が認められなくても,亜鉛補充を考慮してもよい
- 有害事象として,銅欠乏(貧血,白血球減少,歩行困難や転倒等)や稀であるが鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので,数か月に1回は血算,血清鉄,TIBC,フェリチン,血清銅,血清亜鉛等を測定する.
国内において「低亜鉛血症」に適応を有する亜鉛製剤(先発医薬品)は、ジンタス®とノベルジン®です
1) 亜鉛欠乏症の診療指針 2024(一般社団法人 日本臨床栄養学会)