皮膚疾患と低亜鉛血症

解説ページ

低亜鉛血症については、「低亜鉛血症とは」をご覧ください。

皮膚炎と亜鉛

亜鉛不足が原因とされる皮膚疾患として、本邦では稀な疾患ですが、四肢の先端や開口部に丘疹、小水疱および嚢胞を伴う紅斑等が生ずる腸性肢端皮膚炎(Acrodermatitis Enteropathica: AE)が知られています1)。先天性の腸性肢端皮膚炎は、亜鉛のトランスポーターであるZIP4遺伝子の異常による、腸管からの亜鉛吸収障害が病因とされています。また、後天性の腸性肢端皮膚炎は亜鉛不足状態、すなわち、栄養源が高カロリー輸液療法のみの場合や、未熟児・炎症性腸疾患などにより亜鉛の供給量や吸収量が減ることが病因とされています。
皮膚炎の治療に亜鉛の外用剤が有効であることは古くから知られており、亜鉛華軟膏(酸化亜鉛)は外用局所収れん剤として、第一版日本薬局方(1886年)から収載されています2)。また、院内製剤であるMohs軟膏(Mohs’ paste:塩化亜鉛、精製水、亜鉛華デンプン、グリセリンを混和して調製)も体表部腫瘍病巣に用いられています。
亜鉛の内服が皮膚疾患治療に有用との報告は数多くみられますが、本邦では皮膚疾患の治療を効能・効果とする亜鉛の医療用内服製剤はありません。

亜鉛不足による皮膚炎の発症メカニズム

日常診療において多く遭遇する皮膚疾患は接触皮膚炎と考えられますが、この皮膚炎は一次刺激性接触皮膚炎(Irritant Contact Dermatitis:ICD)とアレルギー性接触皮膚炎(Allergic Contact Dermatitis:ACD)に分類されます。ICDは化学物質の接触により皮膚の炎症が誘発され、その原因物質の毒性の強さにより症状の強さが決まると考えられてきました。また、最近の基礎研究(マウス)結果から、AEの本態は、亜鉛不足状態において眼脂や食べ物、し尿、便、生活環境内における化学物質などが刺激物となって引き起こされたICDであると考えられています3)
ICDの発症メカニズムとしては、まず、化学物質が表皮細胞であるケラチノサイト(KCs)を刺激することにより、KCsで産生されたアデノシン三リン酸(ATP)が細胞外へ放出されます。この細胞外ATPが起因物質となり、隣接するKCsがケモカインを産生し、好中球主体の炎症反応を引き起こします3)
さらに、化学物質で活性化された繊維芽細胞がエオタキシンやRANTESを産生し、好酸球が遊走され、活性酸素やサイトカインが産生されることにより、この炎症反応が増幅されていきます4)
通常、この炎症反応が行き過ぎないようにする、いわば”火消し役”の役割を果たしているのが、表皮内のランゲルハンス細胞(LCs)です。低亜鉛餌を与えたマウスでは通常餌飼育のマウスに比しLCs数が著明に減少しており、「火消しの役割」を示していないことが明らかになりました。さらに、この状態のマウスに亜鉛を投与することによりLCs数が回復され、炎症反応が抑制されることが確認されています。また、AE患者の皮膚組織を用いた検討においても、AE患者の皮膚組織のLCs数の著明な減少が、亜鉛サプリメントの6ヵ月間内服により、臨床症状の回復とともに回復していることが確認されています3)

褥瘡患者における血清亜鉛濃度測定の意義

褥瘡治療は、

  1. 保存的治療[外用薬剤(ぬり薬)や創傷被膜材(ドレッシング材)]
  2. 物理療法(温熱療法や寒冷療法等)
  3. 外科的治療(手術療法)

に分けられます。
従来、亜鉛は褥瘡に対する外用薬剤として位置づけられてきました。しかしながら、近年の研究において、褥瘡患者の血清亜鉛濃度は、褥瘡のない寝たきり患者および健常老人よりも有意に低いことが示されており、さらに褥瘡の重症度が増すほど、血清亜鉛濃度が低下することも明らかになっています5)
また、褥瘡予防・管理ガイドラインでは、褥瘡発生後の全身管理のアルゴリズムとして栄養管理、基礎疾患の管理、抗菌薬の全身投与をアセスメントすることが述べられています6)。栄養管理のうち、亜鉛不足は創傷治癒の遅延や皮膚の脆弱化に強く関与していることが知られていますので、定期的に血清亜鉛濃度を管理することが重要となります。

低亜鉛血症を呈する褥瘡患者に対する亜鉛補充療法

2017年3月、酢酸亜鉛製剤であるノベルジン錠®25mg・50mgに「低亜鉛血症」の効能・効果が追加承認され、褥瘡患者で、低亜鉛血症を呈する患者に、ノベルジン錠®を使えるようになりました。褥瘡などの栄養障害の合併が考えられる疾患群では亜鉛補充療法を行い、血清亜鉛濃度の上昇に伴い、症状が改善されることが確認されています。その際、食事療法や栄養補助食品の摂取のみでは不十分であることも指摘されています7)
一方では、亜鉛補充療法においては、血清銅濃度低下への留意も必要です。ノベルジン錠のみならず、他の亜鉛製剤や亜鉛含有サプリメントの投与中は患者の状態に注意して、漫然と亜鉛製剤を投与することを避け、定期的に血清亜鉛濃度ならびに銅濃度を確認する必要があります。


1) 児玉 浩子.日本小児科学会雑誌2009; 113(5): 795~807
2) ファイザー株式会社.亜鉛華軟膏「ホエイ」医薬品インタビューフォーム第5版
3)Kawamura T, et al. J Clin Invest 2012; 122: 722-732.
4)Nakashima C, et al. J Allergy Clin Immunol 2014; 134:100
5)岡田 淳 微量金属代謝 1975; 1: 43-47.
6)門野 岳史ほか.褥瘡会誌2015; 17(4): 487-567
7)今井 順子ほか.岐阜県立下呂温泉病院年報 2012; 37: 31-36.

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